2009年06月 石井優美子選
《金》
山笑ふ終着駅は始発駅 秋山よし美
花うばら母に見せたき海のあり 宮沢恵里
ふたたびの出会ひ緑雨の原宿に 鷲見治子
《銀》
デッキチェア花を浮かべしアペリティフ 和田始子
鐘の音捉へて風の薫りけり 角田智子
怒つても泣いてもひとり髪洗ふ 小泉由佳子
今朝方の雨の匂へる薄暑かな 磯崎憲子
ハンドルを握る弟夏つばめ 和田始子
緑さすしまひ忘るる庭箒 西村麻紀
洋館の窓開かれて新樹光 山中悠嘉
デッキチェア昭和の曲を聴きながら 高木美貴子
白牡丹月のしづくを纏ひては 清水美穂
大島の青きに立てり大卯浪 かしまゆう
ひとり降り立つ花栗の無人駅 清水美穂
夏山や口ついて出る山頭火 鷲見治子
谷若葉はるかに汽笛こだまして 深澤寛子
開店の呼び声高く立夏かな 松田美穂
卯の花に等しく雨の降りにけり 山本ゆうこ
麦秋や師の故郷を抜けて風 かしまゆう
小満の苗木売場の混み合へる 織田道子
麦秋やバスを乗り継ぎ会ひにゆく 池田良子
一湾の果てまで眩し夏兆す 小澤香
緑蔭に苔光り出す真昼かな 板垣道代
夕薄暑坂上りきるまでの黙 長沼玲子
夫の名をよべば若葉の揺れにけり 西まなみ
★行楽に出かけた作者でしょうか。登山客やピクニック客が次々と小さな田舎の終着駅を降りて行きます。乗ってきた行楽客達がいなくなって後、列車は一休みしてまた、入れ替わりに乗って来たお客さんたちを運んで、始発駅として町へと走って行くのです。作者が見たそんな光景は、行楽のふとしたものでありながら、終着駅が始発駅になる発見でもあったのです。よく人生を駅に例えて表現したりすることもありますが、季語「山笑ふ」との取り合わせから、休日を楽しみ、人生を楽しんでいる人たちの、そんな温かい幸福な様子が素直に伺える一句です。★海へでかけると、波音や海の色をしばらくじっと眺めたりします。作者もきっとしばらく海を見ていたのでしょう。波と空の交じり合う彼方を見ていると、ふと母親が海が好きだったことを思い出した作者。母親の美しい思い出にいつもある海を思うとき、同じく大切なものに触れたように海が見えたのかもしれません。そしてそれは、女性ならでは感じる心の裡に人を想うことや、絶えず揺らいでいる何かを、季語「花うばら」が語りだしています。優しくて、どこか切ない一句です。★原宿は若者で溢れる町です。JR山手線で原宿駅を降りていく人たちは、ともても個性的なファッションをしとても軽やかに見えるのです。さて、舞台は原宿のまち。夢を持ち上京した人達がすれ違う原宿で、出会ったふたり。若さの前に一度終った恋でしたが、緑雨の原宿がふたたび二人を出会わせたのです。少し大人になったふたりに訪れた、蒼く甘い記憶。そんなロマンスが似合う原宿を、季語「緑雨」が映画のワンシーンのように見せています。
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