2009年6月16日 (火)

2009年06月 石井優美子選

《金》
山笑ふ終着駅は始発駅         秋山よし美
花うばら母に見せたき海のあり     宮沢恵里
ふたたびの出会ひ緑雨の原宿に     鷲見治子

《銀》
デッキチェア花を浮かべしアペリティフ 和田始子 
鐘の音捉へて風の薫りけり       角田智子
怒つても泣いてもひとり髪洗ふ     小泉由佳子
今朝方の雨の匂へる薄暑かな      磯崎憲子
ハンドルを握る弟夏つばめ        和田始子
緑さすしまひ忘るる庭箒        西村麻紀
洋館の窓開かれて新樹光        山中悠嘉
デッキチェア昭和の曲を聴きながら   高木美貴子
白牡丹月のしづくを纏ひては      清水美穂
大島の青きに立てり大卯浪       かしまゆう
ひとり降り立つ花栗の無人駅       清水美穂
夏山や口ついて出る山頭火       鷲見治子
谷若葉はるかに汽笛こだまして     深澤寛子
開店の呼び声高く立夏かな       松田美穂
卯の花に等しく雨の降りにけり     山本ゆうこ
麦秋や師の故郷を抜けて風       かしまゆう
小満の苗木売場の混み合へる      織田道子
麦秋やバスを乗り継ぎ会ひにゆく    池田良子
一湾の果てまで眩し夏兆す       小澤香
緑蔭に苔光り出す真昼かな       板垣道代
夕薄暑坂上りきるまでの黙       長沼玲子
夫の名をよべば若葉の揺れにけり    西まなみ

★行楽に出かけた作者でしょうか。登山客やピクニック客が次々と小さな田舎の終着駅を降りて行きます。乗ってきた行楽客達がいなくなって後、列車は一休みしてまた、入れ替わりに乗って来たお客さんたちを運んで、始発駅として町へと走って行くのです。作者が見たそんな光景は、行楽のふとしたものでありながら、終着駅が始発駅になる発見でもあったのです。よく人生を駅に例えて表現したりすることもありますが、季語「山笑ふ」との取り合わせから、休日を楽しみ、人生を楽しんでいる人たちの、そんな温かい幸福な様子が素直に伺える一句です。★海へでかけると、波音や海の色をしばらくじっと眺めたりします。作者もきっとしばらく海を見ていたのでしょう。波と空の交じり合う彼方を見ていると、ふと母親が海が好きだったことを思い出した作者。母親の美しい思い出にいつもある海を思うとき、同じく大切なものに触れたように海が見えたのかもしれません。そしてそれは、女性ならでは感じる心の裡に人を想うことや、絶えず揺らいでいる何かを、季語「花うばら」が語りだしています。優しくて、どこか切ない一句です。★原宿は若者で溢れる町です。JR山手線で原宿駅を降りていく人たちは、ともても個性的なファッションをしとても軽やかに見えるのです。さて、舞台は原宿のまち。夢を持ち上京した人達がすれ違う原宿で、出会ったふたり。若さの前に一度終った恋でしたが、緑雨の原宿がふたたび二人を出会わせたのです。少し大人になったふたりに訪れた、蒼く甘い記憶。そんなロマンスが似合う原宿を、季語「緑雨」が映画のワンシーンのように見せています。

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2009年6月15日 (月)

2009年6月高尾早弓選

《金》
夫の名を呼べば若葉の揺れにけり 西 まなみ
吐きとおす嘘なら許す夜の薔薇 池田なお
麦秋や師の故郷を抜けて風 かしま ゆう
《銀》
落雁のすこし欠けたる薄暑かな 織田道子
ひとりづつ渡る吊橋不如帰 板垣道代
貨車通るみかんの花の香の中に 宮沢恵理
夏来たるらしマネキンのピンヒール 佐野佳代子
揚羽蝶水平線を越えにけり 西 まなみ
白靴の小さき花に立ちどまる かしま ゆう
夕薄暑東京タワーの影伸びて 佐野佳代子
テーブルにあかりをひとつ夕薄暑 辰巳道子
連れられて通る裏口業平忌 かしま ゆう
金箔に現れし黒ずみ五月闇 釈 定子
五月雨や余白にふえし覚書 和田始子
デッキチェア花を浮かべしアペリティフ 和田始子
下の子も上の子もきてデッキチェア 林 澄枝
鉛筆の芯丸くなり夕薄暑 板谷圭子
苛立ちの訳曖昧に髪洗ふ 國安由里
禅寺に猫が来てゐる端居かな 西村麻紀
下町の商家に生れて白絣 國安由里
夕薄暑川に沿ひたる長きカフェ 池田良子
アスパラガス虹色の水滴らす 金野美月
表札の墨跡著き昭和の日 三浦さらさ
避雷針切つ先向けし夏の空 國安由里
ワイシャツの背にひろがる薄暑かな 渡辺良恵

○まなみさん、新婚のときでないと詠めない句だと思います。ご主人への想いのみずみずしさ、初々しさにあふれています。○なおさん、こちらはもう少し人生を経験しないと詠めない句かもしれません。嘘をつくにも覚悟が必要です。すぐほころびる嘘には傷つきます。だまされているとわかっていても、だまし通してほしいものです。○ゆうさん、ゆったりと詠んで風が見えるようです。師の故郷への思いは、そのまま師への思いにつながっています。○道子さん、落雁の欠けという微妙なところに薄暑を感じました。○道代さん、吊橋をかこむ山の緑と、不如帰の声と、初夏のすがすがしさを感じます。

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2009年6月 菅野奈都子選

《金》
表札の墨跡著き昭和の日 三浦さらさ
行く春や壁に無数の画鋲跡 佐野佳代子
落雁のすこし欠けたる薄暑かな 織田道子
《銀》
風薫るウィーン少年合唱団 落合 文枝
夏立ちにけり満塁のホームラン 松本広子
夏来たるらしマネキンのピンヒール 佐野佳代子
金箔に現れし黒ずみ五月闇 釈 定子
デッキチェア花を浮かべしアペリティフ 和田始子
吐きとおす嘘なら許す夜の薔薇 池田なお
鐘の音捉へて風の薫りけり 角田智子
万緑や空に向かつて歌うたふ 重松 彩
桐の花空より生れて空のいろ  長沼玲子
薄暑光足湯に女のふくらはぎ 松岡千代
山笑ふ終着駅は始発駅 秋山よし美
釣竿をしならせ鮎の光りけり  板垣道代
連れられて通る裏口業平忌 かしまゆう
鉛筆の芯丸くなり夕薄暑 板谷圭子
補助輪を外す自転車夏兆す 小出さつき
ふるさとは村から町に風薫る 鹿野寿美子
音読の子に耳傾げ夕薄暑 鹿野寿美子
貨車通るみかんの花の香の中に 宮沢恵理
卯の花腐し庭下駄の片一方 西村麻紀
川音に始まる鵜飼開きかな 鷲見治子
緑さすかつて母校でありし場所 磯﨑憲子
教科書を丸暗記して薄暑かな 小泉由佳子

★さらささん、木に筆文字で書かれた素朴な表札は、「昭和」の素朴で実直で気骨のある時代の空気を彷彿とさせるものとして象徴的。★佳代子さん、学校だろうか。かつて数多の掲示物が貼られた跡。母校への思い、あるいは古くなって取り壊される校舎への愛惜の念かもしれない。春を惜しむ思いの中に、作者の深い感慨がこもる。★道子さん、和菓子「落雁」のわずかな「欠け」に「薄暑」を見た作者の感性の鋭くも繊細な感性。

●文枝さん、合唱団の美しい歌声を彷彿とさせるような季語の斡旋。●広子さん、夏を呼ぶような特大のホームラン。選手達の情熱と躍動感。●佳代子さん、細く尖ったピンヒールに、夏の到来を感じた作者。春物から夏物に一斉に切り替わったショーウィンドウが眩しい●定子さん、鋭い観察眼。金箔の光沢や質感、時間の経過が感じられ、作者の内面も浮かび上がってくる。●始子さん、極上の休日。●なおさん、薔薇の鮮やかさと妖しさは複雑な女心そのもの。●智子さん、鐘の澄んだ音に薫風が重なるよう。●彩さん、生命感溢れる緑に力が漲ってくる。その心の弾みが素直に詠まれている。●玲子さん、空のみずみずしい表現から、桐の花の高さや気品が描かれている。●千代さん、初夏の光の中に女性の健康的な色香が漂う。●よし美さん、終焉は新しい始まりでもある。季語に作者の前向きな姿勢と包み込むような優しさが感じられる。●道代さん、釣り上げた瞬間の鮎の躍動感と命の輝き。釣り人の手ごたえも伝わってくる。●ゆうさん、男女の逢瀬の密やかさ。●圭子さん、鉛筆という物に語らせ、一日の終わりの感慨を表現している。●さつきさん、挑戦と失敗を繰り返しては成長してゆく子供。見守る母の広やかな心と真っ直ぐなまなざし。●寿美子さん、名前が変わっても変わらない、作者の故郷への思いと誇り。夕薄暑の句には、母と子の優しい時間が流れている。●恵理さん、みかんの花の色、香り、貨車の音、スピード、そして風…。景の良く見える、映画のワンシーンのような一句。●麻紀さん、場面の状況やその後の展開を想像させる季語が巧み。●治子さん、鵜飼のまちに住む作者らしい臨場感のある一句。●憲子さん、母校の校風やたたずまい、作者の思いが季語によく託されている。●由佳子さん、テストを控えた生徒達の気分や表情が伝わってくる。

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2009年6月 松下美奈子選

《金》
山笑ふ終着駅は始発駅 秋山よし美
怒つても泣いてもひとり髪洗ふ 小泉由佳子
五月雨や余白にふえし覚書 和田始子
《銀》
表札の墨跡著き昭和の日 三浦さらさ
刺繍針休めてあふぐ目に青葉 辰巳道子
青葉若葉や父と子の左利き 中村和日子
返信のあてなき手紙卯波立つ 北嶋正子
厩舎へと戻る象の背春暮るゝ 磯﨑憲子
吊り橋のはじめの一歩夏立てリ 三浦さらさ
デッキチェア花を浮かべしアペリティフ 和田始子
旅先にはしやぎすぎたるソーダ水 池田良子
寝ぐづりの子をもてあます薄暑かな 堀田房子
夕薄暑坂上りきるまでの黙 長沼玲子
姉妹寄りし母の忌夕薄暑 山中悠嘉
行く春や壁に無数の画鋲跡 佐野佳代子
ときをりの風に潮の香デッキチェア 釈 定子
苛立ちの訳曖昧に髪洗ふ 國安由里
春草や児の踊り出すコンサート 池田良子
吐きとおす嘘なら許す夜の薔薇 池田なお
妻でなく母でなき日よデッキチェア 山本ゆうこ
ひとりづつ渡る吊橋不如帰 板垣道代
麦秋や師の故郷を抜けて風 かしまゆう
遠き日のあだ名で呼ばれ夏帽子 板谷圭子
日傘まはしてOLの昼休み 清水美穂
卯の花腐し庭下駄の片一方 西村麻紀

●よし美さん、終着駅は始発駅でもあるという発想の転換にはっとさせられました。春の息吹に満ちた山間の駅からはじまる線路は、どんな場所へも繋がっているのですね。過疎化が嘆かれる地域のみならず、何かに行き詰まりを感じている人にとって、希望の見いだせる一句でもありましょう。●由佳子さん、一日の様々な出来事を抱えたまま髪を洗う作者の心情が、切々と伝わってきます。一人暮らしのやりきれなさを滲ませながらも、髪を洗うことで、心持ちを切り替えることが出来る女性の逞しさが感じられます。●始子さん、忘れないように書き記さねばならない大切な用件が、次から次に舞い込む作者。一つを終えれば又一つ…止む気配のない長雨のようです。写生に徹しつつ、心情を巧く季語に託しました。●さらささん、黒々と墨で書かれた表札に、一家の大黒柱である主の存在が、しっかりと見て取れます。昭和を生き抜いた家長像が、力強く伝わってくる秀句。●道子さん、青葉の美しさに視点を移すことで、刺繍針が生み出している文様の美しさを想像することができます。●和日子さん、青葉風の吹き抜ける中、キャッチボールに昂じている父子でしょうか。確かに引き継がれた命のバトンが、青々と茂った木々の息吹とひびき合い、生命力に溢れた一句になりました。●正子さん、返信などあるはずはない…と自分に言い聞かせながらも、心のどこかで待っている返事。ザワザワと騒ぐ卯波に、女性ならではの心情が託されています。

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2009年6月 堤亜由美選

《金》
新緑へ紙ヒコーキの戻らざる 長沼玲子
鉛筆の芯丸くなり夕薄暑 板谷圭子
夜の薄暑抜けて中村屋のカレー 鷲見治子
《銀》
連れられて通る裏口業平忌 かしまゆう
ミニ薔薇咲かせ客待ちの美容室 秋山よし美
夫の名をよべば若葉の揺れにけり 西まなみ
リラ咲くやいづれも海に到る道 金野美月
一湾の果てまで眩し夏兆す 小澤 香
厩舎へと戻る象の背春暮るゝ 磯﨑憲子
ヴィシソワーズ秘密ひとつを増やしけり 小泉由佳子
薬の日神籤にありし凶の文字 磯﨑憲子
麦秋やバスを乗り継ぎ会ひにゆく 池田良子
こでまりの風を集めてふくらみぬ 林澄枝
風薫るウィーン少年合唱団 落合 文枝
夏来たるらしマネキンのピンヒール 佐野佳代子
薄暑かなボーンチャイナの白すがし 辰巳道子
下町の商家に生れて白絣 國安由里
千枚の原稿用紙薄暑光 板垣道代
あんぱんを二つに割つて若葉風 宮崎しずえ
喝采のホールを出でて月涼し 山中悠嘉
卯の花腐し庭下駄の片一方 西村麻紀
白牡丹月のしづくを纏ひては 清水美穂
デッキチェアいつも遠くの人を追ひ 堀田房子
鐘の音捉へて風の薫りけり 角田智子
青葉若葉や父と子の左利き 中村和日子
☆玲子さん、美しい新緑の中へ紙ヒコーキが飛んで消えて行った。そのエネルギーに吸い寄せられるように。「戻らざる」という下五の留めが眩しすぎる光の中で少しの不安感を表し印象的な一句に仕上がっている。☆圭子さん、夕方になってもまだじんわりと暑さが残る空気感と、鉛筆の芯が丸くなったという感覚が独特の世界を作り出している。☆治子さん、あえて「中村屋のカレー」と固有名詞を出したことで、夜になっても涼しくならない新宿の雑踏の雰囲気が見えてくる。☆よし美さん、「ミニ薔薇」を咲かせている客のいない美容室。小さな町の美容室なのだろう。ミニ薔薇の斡旋が美容師の人となりを語り、句を引き立てている。☆美月さん、海へ続く道にはどの道にも暮らしがあり、今日もリラの花が可憐に咲いている。明日の希望へと続くように。☆由佳子さん、ビィシソワーズの白さ、冷たさと、秘密を増やした心の動きとの取り合わせが新鮮。

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2009年6月14日 (日)

2009年6月 降矢とも子選句

《金》
落雁のすこし欠けたる薄暑かな 織田道子
連れられて通る裏口業平忌 かしまゆう
ワイシャツの背にひろがる薄暑かな 渡辺良恵
《銀》
児の首のすわりて風の薫りけり 林澄枝
ときをりの風に潮の香デッキチェア 釈 定子
苛立ちの訳曖昧に髪洗ふ 國安由里
五月雨や余白にふえし覚書 和田始子
デッキチェア花を浮かべしアペリティフ 和田始子
デッキチェアモネの画集に眼を落とし 織田道子
御感てふ藤ずつしりとどつしりと 角田智子
母の日に母のゐることありがたし 重松 彩
一湾の果てまで眩し夏兆す 小澤 香
その中に鳥も遊ばせ花蜜柑 小澤 香
卯の花に等しく雨の降りにけり 山本ゆうこ
遠き日のあだ名で呼ばれ夏帽子 板谷圭子
白牡丹月のしづくを纏ひては 清水美穂
日傘まはしてOLの昼休み 清水美穂
白線の光るコートに夏来る 宮崎しずえ
花うばら母に見せたき海のあり 宮沢恵理
返信のあてなき手紙卯波立つ 北嶋正子
彼のシャツ借りて寝そべるデッキチェア 磯﨑憲子
黄金週間真中なるさみしさに 小泉由佳子
八十八夜見開きの走り書き 西まなみ
首都高の影を水面に春の川 秋山よし美
若夏の空のかなたへ矢を放ち 深澤寛子

■道子さんの句、「薄暑」は、俳句ならではの言葉かもしれない。青葉の頃、僅かに感じる暑さ。心地良い季節だが、暑さへの心構えもできてないので、かなり参ったりもする。落雁を取り合わせているのは、かしこまったお茶席かもしれない。視点が集中されて、まるで、薄暑ゆえに少し欠けてしまったかのように感じさせる。■ゆうさんの句、業平といえば伊勢物語。連れられて、裏口からこっそりというと、つゆのように消えてしまった高子姫が思い起こされる。作者は誰に連れられ、どこの裏口を通り抜けたのか。物語性を秘めた一句だ。■良恵さんの句、薄暑というからには、まだクールビズにもなっていないのだろう。思いがけない暑さに上着を脱いだ男性。背中が汗ばんで張り付いているよう。汗が広がるとしないで、薄暑が広がるとしたところが面白い。■由里さんの句、苛立ちというのは、論理ではなく感情である。だから、言葉で正当性を説明しきれないものだ。頭で分かっても、苛立ちは収まらない。きっと全てを洗い流すように、勢い良く髪を洗っているのだろう。■始子さんの句、あまり面白くも無い授業なのだろうか。窓の外の雨をぼんやりと眺めているうちに、あれこれれ思いがめぐっていく様子がよく分かる。■智子さんの句、小田原城址公園には大正天皇が皇太子の頃感嘆されたという「御感の藤」という古木がある。「ずつしりとどつしりと」に豊かな藤の房が見えてくる。■ゆうこさんの句、「卯の花腐し」という雨の名を踏まえての俳句。「等しく」が良い、■美穂さん、白牡丹の白さが際立っている。■デッキチェアは、今回の新季語兼題。海やリゾート、午睡をイメージさせる取り合わせが多かった。(降矢とも子)

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2009年5月15日 (金)

2009年5月 石井優美子選

《金》
春愁や脳科学者の腕時計          鷲見治子
鳥の恋空の青さをつかひきり        釈 定子
うりずんの風にベールをひるがへし     角田智子

《銀》
うららかや亀を描くに一服し        秋山よし美
春の池映すものみな揺らめきて       和田始子
鳥の恋図書室の窓開いてをり        田中あき子
古井戸に寄り添ひて咲く馬酔木かな     山本ゆうこ
堂跡の寂れて白き牡丹咲く         池田良子
大御門からの風受く朝桜          北嶋正子
風光る石橋木橋太鼓橋           小澤 香 
バス停のフレッシュマンにはさまれて    深澤寛子
啄木忌黒板消しのほころびぬ         西村麻紀
角砂糖ひとつ溶かして鳥の恋        宮沢恵里
つちふるやランプにかへる大魔人      かしまゆう
花疲れしてコーヒーを飲み干せり      小泉由佳子
茅葺の屋根よりの風白牡丹         宮沢恵里
花屑をつけて鵜飼の舟洗い         松岡千代
木漏日の中の紅橋鳥の恋          池田良子
やはらかなものをふふみてチューリップ   和田始子
山小屋の窓辺によりて鳥の恋        松本広子
指切りのゆびの離れて花の冷        坂ゆかり
絵手紙の余白にかほる沈丁花         松田美穂
初蝶やきのふの夢の消へやすし       池谷瞬草
サイフォンの音する朝花菫         磯崎憲子
右左靴を違へてしやぼん玉         池田なお

★どこかの講演か何かで、脳科学者の話しを聞いたのでしょうか。そんなところに見えた、脳科学者の腕時計。そこに、脳科学者の不思議が全て集約されているように見ている作者が伺えるのです。一見何の関係もなさそうなものを、見事に二物衝突にさせて生まれた秀句。脳科学者と言えば、一番に茂木健一郎氏を思い浮かべますが、脳科学者だけでなく、アインシュタインでも、湯川秀樹でも、どことなく博士や学者と言われる人たちの持つものに、「春愁」を感じる、納得させられるものがあります。★「鳥の恋」は、春から夏にかけて繁殖期を迎えた鳥たちの求愛行動そのもを、如実に表している季語です。声を張り合いながら、はばたきを頻りにしながら、いつまでも鳥達は求愛をし続けます。その声は切ないほどに響き聞こえてくるときさえあります。それを“空の青さをつかひきり”と表現した作者。それは鳥だけではなく、人の恋慕の情へと導かれてゆくのです。一途なまでの、胸が締め付けられるほどの恋心を、一句に感じることができます。★「うりずん」は沖縄地方で旧暦の3月ごろに吹く風のことを言います。またこの頃から、乾季が終わり南風が吹き始める頃と言われています。きっと南の島で挙げる結婚式を見かけたのでしょう。花嫁の幸福を讃えるように、「うりずん」がベールを翻していきました。花嫁衣裳の真白さと、透き通るような南の島の海の色と白い砂浜。どれをとっても眩しく、幸福に輝いている一瞬を、素直に感じることのできる一句です。

※PCの故障により、「白百合問答」への記事UPができなかったため、今月より、以前のものから少しずつですが“ちょっとお気に入り”を再開します。併せてご覧下さい。

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2009年5月 堤亜由美選

《金》
春愁や脳科学者の腕時計 鷲見治子
裸婦の絵にもんしろてふのとまりたる 前田隆子
土の香の滴となりて穀雨かな 鹿野寿美子
《銀》
囀りにウエッジウッドの青選ぶ 長沼玲子
ひと筆に描く帆船春の果 かしまゆう
リラ冷や自転車濡らす雨雫 板谷圭子
指切りのゆびの離れて花の冷 坂ゆかり
行春や息づくものに名を連ね 秋山よし美
修司忌やピエロの落とすジャグリング 北嶋正子
うららかや亀を描くに一服し 秋山よし美
背伸びして耳うちする児桃の花 宮沢恵理
初蝶やきのふの夢の消へやすし 池谷瞬草
人生の半分あたり飛花落花 三浦さらさ
賑ひの中戻り来て春愁 國安由里
手毬麩の紅ふつくらと花の昼 釈 定子
右左靴を違へてしやぼん玉 池田 なお
昨日とは違ふ寝癖もフレッシュマン 秋山よし美
幕間に引き直す紅春惜しむ 鹿野寿美子
ローマより届きしカメオ鳥の恋 松田美穂
ステンドグラス花冷えのひとかけら 佐野佳代子
風光る石橋木橋太鼓橋 小澤 香
こどもの日ベランダの声真っすぐに 田川 緑
古井戸に寄り添ひて咲く馬酔木かな 山本ゆうこ
木漏日の中の紅橋鳥の恋 池田良子
春風をまとひベンチの旅鞄 堀田房子
☆治子さん、春愁と脳科学者の腕時計、なんとも言えない組み合わせで面白い。どんな腕時計だったのだろうか、と想像が膨らむ一句。☆隆子さん、裸婦像の白い肌と紋白蝶の組み合わせがとてもいい。七五を平仮名にしたところも効果的で成功。☆寿美子さん、穀雨そのものをストレートに詠んだ句。一滴一滴に土の香りが立ち込めている。その香りは様々な生物たちが芽吹育ち行く、大切な雨滴なのである。☆玲子さん、鳥の囀りの中選ぶ陶器。春の喜びに満ち溢れる幸せなひととき。☆よし美さん、公園でなにやら絵を描いている初老の男性。描いているのが「亀」であり、一服しつつ描くその姿に、何とも言えない春のうららかな感じが伝わってくる。☆さらささん、人生の半分あたりに差し掛かった作者に降り注ぐ桜の花びら。今まで頑張って来た自分へのエールであり、後半戦もいい人生にするぞ、と新たな思いを熱くする作者。桜の花はいつも人生の隣で寄り添ってくれている存在なのだ。☆緑さん、ベランダから聞こえてくるまっすぐな子どもの声に、今日はこどもの日だったと気づいた作者。まっすぐな清らかな子どもの存在はいつも大人たちに気づきを与えてくれるのだ。

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2009年5月高尾早弓選

《金》
鶯のひと鳴きに雨上がりけり 鷲見治子
ステンドグラス花冷えのひとかけら 佐野佳代子
苗札の母の筆跡なぞりけり 板垣道代
《銀》
指切りのゆびの離れて花の冷 坂 ゆかり
手から手へ行きかふ手紙鳥の恋 板垣道代
ひと筆に描く帆船春の果 かしま ゆう
花月夜耳たぶに指添はせつつ 渡辺良恵
なにごともなかつたやうに花の雨 初田幸代
啄木忌黒板消しのほころびぬ 西村麻紀
大和路の雨の晴間の鳥の恋 板谷圭子
鳥の恋空の青さをつかひきり 釈 定子
花疲れしてコーヒーを飲み干せり 小泉由佳子
うりずんの風にベールをひるがへし 角田智子
木洩日をしばしとどめて春日傘 山本ゆうこ
大見得を切つて名古屋の春暑し 清水美穂
青空に委ねて花の綻びぬ 鷲見治子
ひとむらは空へむかひし花吹雪 田中あき子
春愁の十七文字に収まらず 萩原満智
鳥の恋図書室の窓開いてをり 田中あき子
二冊目の育児日誌や水温む 林 澄枝
プリクラといふ密室に春惜しむ 坂 ゆかり
フレッシュマンIDカード光らせて 織田道子
旅枕母と並べし花の宿 三浦さらさ
引越しの娘のパスタ上手なり 北村英子
○治子さん、実際には雨上がりの頃に鶯が鳴いたのでしょうが、その声に雨が上がったととらえたところが新鮮です。艶やかな声と、青空が見えるようです。○佳代子さん、「ひとかけら」の表現が美しい句です。○道代さん、何年も使っている苗札でしょうか。花の苗と、お母様を慈しむ気持に溢れています。○同く道代さん、「行きかふ」から楽しそうな場の雰囲気が想像されます。どんな手紙でしょうか。○ゆうさん、遊びには楽しさと、終わったときの淋しさがつきもの。「春の果」の斡旋が上手いです。

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2009年5月 菅野奈都子選

《金》
手毬麩の紅ふつくらと花の昼 釈 定子
ステンドグラス花冷えのひとかけら 佐野佳代子
愁ひごと空に吸はせる啄木忌 池田 なお
《銀》
指切りのゆびの離れて花の冷 坂ゆかり
春日和句読点なき長話 國安由里
鳥の恋空の青さをつかひきり 釈 定子
人待ち顔の春ショール引き寄せて みやぎ深雪
ネクタイは水玉模様フレッシュマン 林澄枝
木漏日の中の紅橋鳥の恋 池田良子
裸婦の絵にもんしろてふのとまりたる 前田隆子
鳥の恋携帯電話まだ切らず 八重樫雅子
初蝶やきのふの夢の消えやすし 池谷瞬草
鳥の恋口説き文句の長かりし 織田道子
木洩日をしばしとどめて春日傘 山本ゆうこ
じやんけんに慣れて土地の子花薺 秋山よし美
背伸びして耳うちする児桃の花 宮沢恵理
幕間に引き直す紅春惜しむ 鹿野寿美子
始まりは入学式の前後ろ 重松 彩
山頂の観音堂や鳥の恋 和田始子
桜草母校に赴任する日かな 宮崎しずえ
春愁の十七文字に収まらず 萩原満智
鶯のひと鳴きに雨上がりけり 鷲見治子
鳥の恋図書室の窓開いてをり 田中あき子
部署会議一刀両断花曇 西まなみ
春の夢アリスのうさぎすれ違ひ 小出さつき
●定子さん、花見の昼御膳のお吸い物だろうか。椀の中に麩が汁気を吸って
丁度良いふくらみ具合で浮かんでいる。塗椀の光沢、澄んだ汁、手毬麩の紅
が、花の昼の明るさの中に鮮やかに見え、作者の満ち足りた心の内が伝わ
ってくる一句。●佳代子さん、「花冷えのひとかけら」という措辞が見事。
ステンドガラスの図柄や黒枠に添ってカットされた鋭利な角、散りばめら
れたガラス一片ごとの色の鮮やかさや透明感に桜の頃独特の冷えを表現し
た美意識と感性が光る。●なおさん、『一握の砂』などで知られる石川啄
木の忌日は4月13日。その作品には、貧困に苦しみ病で夭折した啄木の苦
悩や孤独感が色濃く表れているが、掲句のさらりとした詠み口に、啄木へ
の親しみ、若さ、救いのようなものがある。
●ゆかりさん、繊細で女性らしい感性。●由里さん、中七の措辞が巧み。
●定子さん、時の経過を「空の青さをつかひきり」と表現したのが見事。
●深雪さん、恋する女性の可愛いらしさ。●澄枝さん、新入社員のさわ
やかさ初々しさ。●良子さん、視覚と聴覚で景が鮮やかに見える一句。
●隆子さん、裸婦の絵の肌の色や質感が蝶を誘うようなリアルさがある。
●雅子さん、恋の渦中にある女性が現代的に描かれている。●瞬草さん、
夢のように現れ消えていった蝶との一瞬の邂逅。●道子さん、「鳥の恋」
を通して作者の恋愛観が垣間見えるよう。●ゆうこさん、春日傘を手に
したときめきと明るさ。●よし美さん、じゃんけんは地方によって微妙
に違う。転校生と地元の子供たちとの関わりを見守る優しいまなざし。
●恵理さん、幼子の可愛らしさが生き生きと描かれている。●寿美子さん、
女性のたおやかさが美しく表現されている。●彩さん、省略の利いた表現
でドラマを予感させる。●始子さん、取合せの妙。空間の広がりや神聖さ。
●しずえさん、母校の懐かしさ、初々しい緊張感。●満智さん、「春愁」
という捉えどころのないものを大胆な措辞で見事に表現。●治子さん、
雨上がりの景が鮮やか。鶯の色や声が際立っている。●あき子さん、
健康的で広がりがある。●まなみさん、会議で下された断固たる処置。
「花曇」が不穏な空気を示するよう。●さつきさん、「春の夢」の
甘く妖しく不思議な感覚。

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